高齢者の便秘の原因とリスクについて

そもそも便秘というのは、どういう状態を指すのでしょう。

 

理想のお通じは1日1回と言われていますが、2,3日に1度でも本人が苦にならず、健康な腸の状態を維持できていれば、便秘ではありません。

 

定期的に、いい固さや量のお通じがあればよいのです。

 

逆に言うと、お通じがあっても「うさぎの糞」だったり、おなかが苦しかったり、10日も出なかったりすれば、すべて便秘と言えます。

 

便秘というと若い女性のイメージがありますが、最も多いのは高齢者です。

 

そして高齢者の便秘は、生活にかなりの悪影響をもたらしてしまうのです。

 

まず、どうして便秘になってしまうのか考えて見ましょう。

 

最大の理由は、筋力の低下です。

 

腹筋などの体の筋肉から、大腸などの内臓の筋肉まで、排便のために必要な筋力がすべて衰えてしまうために、便を外に出せなくなってしまうのです。

 

女性の便秘が多いのは、元々筋力が弱いためです。

 

このようなタイプの便秘を「弛緩性便秘」と呼びます。

 

内臓の筋力が落ちてくると、腸が緩み、たるんでしまいます。

 

ゴムホースの想像をしてみましょう。新品でピンと張りつめたホースに、水を流すと勢いよく水が出ますね。

 

またモノが詰まっても水を流せば、すぐに元に戻ります。

 

逆に、傷んでふにゃふにゃになってしまったホースは、とても水の通りも悪く、何かが詰まってしまったら、簡単には治りません。

 

高齢者の場合、ホースを支えるはずの体の筋肉も、当然老化で衰えてしまいます。

 

ふにゃふにゃなものを、ふにゃふにゃと支えているため、排便に必要な力が入りません。

 

このように、腸全体が緩んだ状態になるため「弛緩性」という呼び名なのです。

 

弛緩性便秘になる理由は、ただ「緩んでしまって押し出せない」ことだけではありません。

 

快適な便は「バナナの形」と言いますが、便がバナナの形になるためには、適度な水分を含み、体内で要らないものをバナナ型にまとめる作業が必要です。

 

つまり、一定の時間、便が体内に留まっていてくれないといけないのですが、先に書いたように、高齢者の腸は緩んでいます。

 

特定の場所に、きちんととどまる力が無いため、便の中にしっかりと水分を取り込むことが出来ず、バナナ型の便を作ることが出来なくなります。いわゆる「うさぎの糞」しか出なくなったりするのです。

 

バナナ型の便は、不純物を外に押し出すのに1番適した形なのですが、緩んだ腸では「出しやすい便」を作ることが出来ないのです。

 

こうして腸のあちこちに、中途半端な便が溜まりっぱなしになります。

 

更に便が長い間、腸の中に留まっていると、どんどん体に有害なガスを出し、腸の中に溜まっていきます。

 

溜まった便とそこから出るガスのために、どんどん腸が狭くなり、余計に便の通りが悪くなります。

 

こうして、どんどんと便秘が悪化してしまうのです。

 

こうして便秘が慢性化すると、おなかの調子が悪いことで、出不精にもなり、運動する意欲や食欲も落ちてきます。

 

そうすると、よけいに腸や内臓の筋肉は落ち、それを支える腹筋も落ちてきます。

 

おなかの調子も悪く、生活の質が悪い状態で、おいしく食事をとることが出来るはずがないですよね。

 

こうして高齢者は、内臓機能の低下も手伝って、小食になります。

 

すると、腸内に入るもの自体が減るため、よけいに便秘がひどくなります。

 

また高齢者は、体内の水分量が落ちるため、人一倍水分を取らなくてはいけないのですが、小食になってくると、それも出来ない状況になってきます。

 

水分量の維持が出来なくなると、「うさぎの糞」しか出ず、すっきりした排便の感覚が得られず漠然と便秘の不快感を抱えた生活を送ることになります。

 

またこういう状態で生活を続けると筋力は更に衰え、姿勢も悪くなっていき、余計に内臓が圧迫され、腸の力を弱めることにつながっていくんです。

 

若い人であれば、姿勢を良くして運動をして、食事をしっかり取ろうという生活改善は比較的本人の決意次第で出来るのですが、高齢者の場合、体や気力が衰えているので、生活の改善をするというのは、下の世代が思う以上にハードルが高いことなのです。

 

今回は弛緩性便秘が高齢者にもたらす影響を書いてみましたが、高齢者が便秘になってしまう理由はこれ以外にも、高齢者特有の条件がまだまだ多くあるのです。

 

便秘になる条件が非常に多く、改善方法も容易ではない、また長く便秘になることで、どんどん健康状態を悪化させ、生活の質が落ちていく、ひどい場合はその人の人生を狂わせてしまうと言っても大げさではないのが、高齢者の便秘の特徴です。

 

高齢者の便秘は「ただお通じの状態が悪い=治す努力をすればよい」という単純な図式ではないことを、まず頭に入れておいてください。

 

便秘が及ぼすリスク

 

高齢者の便秘は、大腸がんやその後の合併症を起こしやすく、また合併症のためにより便秘が悪化し、どんどん生活の質が落ちていく、という悪循環が1番怖い点です。

 

しかし、それ以外にも便秘は、一見腸には全く関係ないようなことにいろいろな悪影響をもたらすのです。

 

どのようなことが起きるのか見てみましょう。

 

1 高血圧~脳血管、心臓血管障害

 

便秘になると、トイレでいきんでしまいますね。高血圧の人にこれは大変危険です。

急激に血圧が上がるため、血管への負担が急にかかり、脳梗塞心筋梗塞などの病気を起こします。

 

また元々高血圧ではなかった人も、このような習慣をつけていると、高血圧の状態が長くなります。

 

すると同じように脳、心臓という命取りの病気に発展してしまうのです。

 

2 便秘というのは、おなかにゴミをずっと溜めているのと同じですね。

 

すると血流自体が悪くなります。

 

そうすると「冷え」を招くのです。「冷えは万病の元」と言いますが、まさにその通りで体が冷えると免疫力が低下します。

 

各種感染にかかりやすくなりますが、高齢者の場合、1番危険なのは肺炎です。

 

高齢者の肺炎の予防接種が義務化されましたが、肺炎というのは高齢者にとっては命取りなのです。

 

また腎炎、膀胱炎など泌尿器系の感染症にもかかりやすくなります。

 

これらの感染症は命を取られなくても、一定期間寝た状態になりますね。

 

すると、高齢者の場合は、かなりのスピードで筋力が落ちます。

 

「歩くと疲れる」となり、運動不足になります。より歩けなくなります。この先にあるのは寝たきりです。

 

3 栄養吸収の低下

 

感染症にかかりやすくなるもう1つの理由は、便秘で腸内環境が悪化することです。

 

免疫力も落ちますが、それ以前に必要な栄養を吸収する力が落ちてしまうのです。

 

こうなると、免疫機能を働かせる体そのものが弱ってしまうので、心身共に活動量が減り、暮らしの質や意欲を落としてしまうのです。

 

4 血行不良から来るストレス

 

デスクワークをしている人なら、仕事の終了時に体がガチガチという経験は誰でもしているのではないでしょうか。逆に温泉に入ると、心身共にストレスが飛んで行くような気持ちになれます。

 

血行が悪くなると絶えず緊張した状態が続きます。心身の疲労が増し、余計にストレスが増えていくのです。

 

便秘が血行不良を起こすことは先に書いた通り、この心身の不調が余計にストレスを溜め、自律神経に悪影響を与えて「リズミカルな快便」から、どんどん遠のいてしまうのです。

 

つまり便秘というのは、究極の万病の元なんですね。

 

上のような状況になった高齢者は、認知症の確率も高くなります。便秘という一見ささいなトラブルが高齢者の楽しい老後生活を奪ってしまう可能性は高いのです。

 

高齢者の便秘が原因の病気について

 

便秘になると、おなかが張って苦しいですよね。


しかし、便秘が怖いのは、それだけではなく、便が出ないことで健康を害することが多く起きてくることです。


特に体の力自体が落ちている高齢者は、便秘の悪影響が非常に出やすいものです。


具体的に、どのようなことが起きるか見てみましょう。

 

1 大腸ポリープ、大腸がん


身体の中に長く腸を溜めておくと、有害物質やガスが腸の中に発生します。


ゴミを身体の中に溜めているのと同じですから、当然ですね。


また高齢者の場合は腸内の善玉菌が減り、腸内環境が悪化するため、より、便秘による悪影響が強くなります。


このために、ポリープが出来やすくなります。良性ポリープは特に体に害はないのですが、定期に検査を受けなければならず、高齢者には体の負担が大きくかかります。

 

そして、ポリープが出来やすくなれば、大腸がんになる確率も上がります。


しかも高齢になると、病気の治療にかかる体の負担がかなり大きくなります。


腸の手術をして合併症が起き、寝たきりになるなど、一気に健康を損ねることも珍しくありません。

 

2 腸捻転、腸閉そく


文字通り、便により腸が詰まったりねじれたりする病気です。


高齢者の場合、腸内で食べ物などを消化する力が弱くなります。そして腸が詰まりやすくなり、腸閉そくや腸捻転を起こしてしまうのです。


また大腸がんなど、腸の手術が原因で起きるケースも、非常に多いです。

 

便が詰まりやすいためにがんになる、または腸閉塞が起きる、そして腸が狭くなったり癒着することで、別の病気が起きるという悪循環が起きてしまうのが高齢者の便秘の怖い所なのです。

 

3 ポッコリおなかと腰痛


いわゆるメタボ腹になります。メタボな腹の中身はたるんだ腸なのです。見た目ぐらいどうでもいいや、と思う人もいるかもしれませんが、おなかが圧迫されることで血行が悪くなります。


その結果、腰の血の巡りが悪くなり、腰痛が起きることもあるのです。

 

腰痛が悪化すると、運動機能が落ち、より便秘になりさらに動かなくなり・・と、高齢者の生活の質がどんどんと落ちて行ってしまうのです。

 

もちろん腰痛だけではなく、腎臓、肝臓を圧迫することもあります。


むくみや冷えなどが出やすくなります。冷えは免疫力を低下させ、他の病気を呼びます。


また内臓機能も落ちていき、生活の質がどんどん低下していくという悪循環になるのです。

 

このように高齢者の場合、便秘が元でトラブルが起きやすい上に、どんどん他のトラブルを呼び込み、さらに便秘が悪化して生活の質が落ちていくことが、非常に怖いのです。

 

高齢者の便秘対策に下剤は危険?

 

高齢者の便秘は、ただ便通が無いことだけでなく、腸内環境が悪くなることなどから来る悪循環が、高齢者の生活の質を落とす・・最悪の場合、寝たきりや認知症にもなりかねないのが怖い所なのです。

 

では、便秘にならないように、下剤を使えばいいのではないか?と思いますよね。
もちろん下剤は便を外に出せるという意味では有効ですが、デメリットも多くあるのです。

 

まず下剤の種類について、説明しましょう。


下剤は大きく分けると

 

  1.  便意を促し、腸の運動を高めるもの~浣腸や、ダイオウなどの生薬など
  2.  便が出やすくなるように、便の質を良くするもの(便内の水分量を増やすもの)~酸化マグネシウムなど

の2つがあります。

 

高齢者の場合、腸の筋力が緩み、便の排泄力が弱っているうえに、神経伝達力も衰えてくるため、1のタイプが多く使われます。

 

もちろん便は出ますが、あくまで対処療法で「便秘になりやすい状態」が治ったわけではありません。


むしろ逆になってしまうのです。

 

便を体外に出すということは、人間の健康にとってとても大事なことですね。


だから、元々体にそのような機能は備わっているのですが、下剤でその機能を補う習慣がつくと、体はどんどんサボることを覚えます。

 

下剤が「便意のお知らせ」も「便を出すための腸の運動」もしてくれるのですから、下剤を常用すると、自分自身の力で、便を出す力は当然衰えていってしまうのです。

 

これは若い人でも同じですが、自分自身の体の力が衰えている高齢者の場合、より下剤への依存が強くなってしまいます。


薬で出すことに慣れてしまうと、今までの薬では弱い、また絶えず便を出していないといけない気分になり、より強い下剤を多くの回数使うことになります。


こうして、どんどん便秘自体は悪化してしまうのです。

 

またこれが行き過ぎると、大腸メラノーシスという、大腸の壁が固くなってしまう病気になり、より便秘がひどくなってしまいます。

 

とはいえ、頑固な便秘の場合は、もちろんお通じを良くすることが最優先です。


あくまで、救急処置として使うと良いでしょう。


また同じ下剤でも、上記2のように、便に水分を多く含ませるタイプのものだと、排便力があまり落ちずに済みます。

 

便秘が健康に良くないのは、腸内環境が悪化することで、免疫力が落ちたりと、体に様々な害を及ぼすことです。腸内環境を良くすることが便秘解消では大事なことです。

 

最後に便秘の理由が、大腸がんなどの場合は、下剤を多用することで病気自体を見逃してしまいます。


そのことも頭に入れておきましょう。


まず、便秘の原因を探り、自分自身の体の力で便秘を解消するのがベストなのです。